食養内科

59 体重と体質、痩せと肥満

 私が体質に注目するようになったのは次のような症例に出会ったからです。
 患者は45歳の女性です。身長は166cm、体重は101kgでした。病名は膵炎で、症状は腹痛と腰痛でした。患者は医者から痩せれば治るから痩せなさいと、どこへ行っても言われていました。しかし痩せることが出来なくて、食養内科に入院してきました。入院して食事療法をすれば痩せるだろうと思ったのです。
 入院中の給食は、痩せるために主食も副食も普通量の3分の2にして少なくしました。入院当初は1日に体重が1キログラム減少し順調でしたが、1ヶ月位して患者は体調が悪くなってきました。気持ちが悪いと言い、回転性のめまいや嘔気も出て来ました。
話を聞くと食事を殆ど食べていないと言うのです。「食べようとしても食べられない、体が受け付けない」と言うのです。食べようとはしているのですが、体が拒否しているようなのです。
食べてはいけないという気持ちが強くて体が拒否してしまったので、食べなければいけないと思っても、食べられない状態になっていたのです。
食べないのですから、体重は減りますが、体調は悪くなります。入院して元気だった人がだんだんと病人らしくなっていきました。詳しく聞いてみると、患者は3ヶ月で30キログラムの体重減少を目標としていました。それで毎日体重を量っていたのです。それで体重が思うように減らないため、段々と食べられなくなっていったのです。
ここで私が考えたことですが、食べなさいと言っても効果はありません。本人は食べようとするのですが、体が受け付けなくなっていたのです。どうして食べなければならないかを、本人が納得するように説明して、食べようという気を起こさせなければなりません。
 私も困ってしまいました。患者は痩せなければならないという気持ちが強くて食べることが出来なくなったのです。食べなければ痩せるから食べないのです。本人は一生懸命頑張っているのです。しかし、これでは健康状態が悪くなります。本人が食べようとしても食べられなくなってしまったのです。
 そこで私も何日か悩みながら考えていると、ふとひらめいたのです。
 食べないと言うことは、体重は減るが、体質が変る訳ではない。体質はもっと悪くなる。それはどういう事かというと、食べないと新しい食物が体に入ってこないから、血の質は古くなっていく。古くなると言うのは血の質が悪くなっていくのです。健康な人でも食事を食べなければ段々と体調が悪くなっていきます。
患者は高度の肥満で、食べる物もハンバーガーやスポーツドリンク、菓子類が好きで、手軽に食べることができるものが多く、食生活に問題がありました。そして肥満になり、膵臓も悪くなり、腹痛を起こしていたのです。
食べないで、ただ痩せるだけでは体質は変りません。体に良い物を食べて血を変え、細胞を変えながら痩せていかなければ病気は良くならないと、その時考えました。
 それで私は患者に私の考えたことを話しました。
「あなたは痩せれば治ると言われ、痩せれば治ると思っているけれども、痩せるだけでは病気は治らない。現に今、食事を食べなくなって体重は減っているけれども、体調は悪くなり毎日つらい日が続いている。あなたは菓子類を多く食べ、食事の内容が悪かったから太ってしまった。血の質も細胞の質も良くない。悪い体質のままで食事を食べないと、悪い体質のままで血も細胞も古くなり、濃縮されて体に残り、病気が良くなる方向が見えてこない。食事を食べることにより、新しい食物を体に入れていけば、新しい血ができる。そして新しい血が古い血に取って代わることができる。細胞も新しい血によって、質を変える事ができる。新しい食物を体に入れて、血の質、細胞の質を変えることが、膵臓を治すことにつながるのです。体重減量の目標も半分に落として、3ヶ月で15キログラム位に設定した方がよい。」と言いました。
その話が理解できたのか、患者はその後、少しずつ食べるようになりました。食べるようになると吐気もとれて、体調も良くなり一件落着ということになりました。
 この時、私は体重と体質ということを考えさせられたのです。

私自身の体験

 私は若い頃、元気がなく、元気になりたいと思っていたが、その頃は痩せていたから元気がないと思い、太れば元気になると思っていました。しかしその頃、努力してもなかなか太れませんでした。
 しかし、玄米食を始めたら体重は減っていくのに元気になりました。風邪をひかなくなりました。疲れにくくなりました。体重と元気さは違うのだと思いました。
 筋肉マンのようになれば元気になると思って、はげしいスポーツをやりました。しかし、長続きはしませんでした。体はかえって傷ついたような気がします。
 私の体が一番安定したのは太ることをあきらめ、筋肉マンになることをあきらめた時からです。痩せたままでいいのだと芯から思えるようになった時、私の心は安定しました。痩せたままで元気になれると確信しました。

体重より体質

 昔のように食生活が素朴な時代は太っている人が元気で、痩せた人は弱いという考え方が通用するでしょうが、今のように多種多様の食品が出回って、多種多様の食べ方している人が多い時代は、太っている人が元気で、痩せている人が弱いという考え方は通用しなくなったのでしょう。
 食生活が豊かになると、みんなが食べ過ぎの傾向になります。太る体質の人は太るし、痩せる体質の人は痩せます。元気になるか、弱くなるかは食べ物の内容で決まるように思います。
 手をかけなくてもお金を出せば、何でもすぐに食べられるような便利な社会になりましたが、便利なものだけに頼っていると、体質を低下させる恐れがあります。
 体重より体質を重視して食養生に努めてください。
平成24年6月17日
著作 長岡由憲