食養内科

9 日野厚医師のガン治療経験         印刷用【PDF】はこちらから>>

 双洋物産株式会社という会社があって、その会社が「薔薇」という季刊誌を発行していました。双洋物産はローヤルゼリーやプロポリスなどを扱っていた会社です。
 その「薔薇」に日野厚先生は1982年から1987年まで「食を見つめて」というタイトルで連載の文章を書いておられます。全部で23回ですが、10回から「癌と食生活」というシリーズが始まり7回まで続きました。ここで紹介する文章は最後の7回目になります。
 自分の臨床体験が2例とあと1例は米国のアンソニー・サティラロの話です。いずれも末期ガンで劇的な治療効果を上げた症例です。驚きの結果が書いてあります。
 サティラロの経過は本人が書いた著書がありますから、それを読めば詳しく分かります。著書は「がん―ある『完全治癒』の記録」です。
平成25年8月4日
文責 長岡由憲

連載・食を見つめて 16
癌と食生活(七)           日野厚 医学博士
松井病院附属食養内科部長

 既に6回にわたり、癌と食生活、殊に摂取エネルギー、脂肪、蛋白質、炭水化物、食物繊維、ビタミンA、C、微量栄養素であるセレン、亜鉛、沃素について諸データの極く一部のものについて極めて簡略に述べて来たつもりであるが、あまり簡略化したので、読者の誤解を招くのではないかと懸念している次第である。
 しかし、本誌の読者の多くは専門的に、かようなことを勉強しようとされているのではあるまいから、この6回の執筆内容でさえも、果して幾人の方が読まれたであろうかと思っている。細部に亘って理解されることを願っての文ではなく、大づかみに、「癌と食生活」についての研究は、基礎的、疫学的、臨床的に、目覚ましく進められつつあるが、癌に関する研究に限らず、凡そ科学的研究なるものは、一般に、極く特定された微妙な諸条件の組合せの下でのものであり、現実の日常生活は一般に決して、そのような特殊条件下で営まれるものではあり得ないから、その成績が、現実の一般生活に普遍的に該当すると考えることはかなり困難を極めた無理な話である。だから、このシリーズものでの私の願いは、単にこれらの分野での諸成績の一端を示すことに留まるのではない。個々の研究遂行への撓まぬ努力には真に敬服するが、ここに示して来た諸成績でも、一見、相反するように見えるものも少なくないのであり、実生活にストレートに持込むことには十分に慎重を要することを、強く指摘しておくことにもある。
 さて、巷間では、かなり昔?から、癌の予防、あるいは治療に効があるとして、種々の食生活法やら、食事療法やら、特殊の食品を薬物まがいに用いることが、かなり、横行して来ていると云えよう。
 私自身、生態学的栄養学に基づく食生活、食事療法につき、諸種の悪性腫瘍に罹患している種々の患者に対して助言~指導を約40年間、行って来て、悪性腫瘍が消失して、長期間生存したという程の経過を示した患者は記憶にない。
 しかし、病状の進行速度が遅くなったと思われるとか、好転したとか(たとえ一時的にせよ)、自覚症状が軽減したとか、延命効果があったように思われたとかは、かなり経験して来ている。読者の何かの参考になればと思い、次に、その内の2~3の患者での経過について簡単に記してみる。

 ① 63歳、寡婦。末期子宮癌で、以前、私が勤めていた病院の産婦人科に入院中の患者であった。腹痛、腹部膨満、嘔吐頻回で食事摂取ほとんど不能(流動食でさえも)。浮腫、腹水著明。手術不能で鎮痛剤、吐き気止めの注射の繰返しであり、まさに「地獄の苦しみ」のようであるという。家族も主治医も患者に楽な最後を迎えさせて上げられぬかとして、私の内科に廻されて来た。
 しかし、食事療法という以上、何も食べられないのでは困るわけであるから、再三、辞退したが、「先生は心身医学的な診療もしておられるから、是非に」というので、止むを得ず、一応、引受けさせられた。
夕方に転科となった。多分おさまるまいとは思ったが、試みに玄米重湯をその日の夕食として給食してみたところ、夜になっても、又翌朝迄も吐かないままであった。痛みも軽減した。以後も、同様に食物がおさまるので、次第に全粥へと進めて行ったが、何れも吐かずにおさまった。
 患者も家族も、ナースも私も、正に驚きであった。更に驚くことには、腹痛も殆ど消失し、腹水や全身性浮腫も漸減し、次第に歩行するようになり、いつ廻診に行ってもニコニコしているようになったのである。患者も家族も「感謝」の連発であった。
 しかし、元気になるにつれて、私が禁止している種々の食物を食べたがるようになった。入院生活が窮屈に感じられたのであろう。「死ぬ迄に、短期間でも、もう一度、自宅での生活を味あわせたい」という家族の申し出もあり、止むを得ず、いったん、退院となったが、3ヵ月後には、また、浮腫などがぶり返して再入院となった。今回は殆ど効なく、間もなく死去された。しかし、腹痛は最後迄、ほとんど訴えられず、患者の家族からその死後も、感謝され続けた。

 ② 45歳、主婦。両側肺門部の癌で、癌専門病院に入院中。手術不能。腫瘍はどんどん大きくなり、連日激痛で、食事摂取もかなり困難。体動も著しく低下。年末となり、病院から、一旦、自宅で過ごすことを勧告され、退院。直ちに私の知人の紹介で私の往診を求めて来られた。病歴、胸部レントゲン写真所見、その他により私には、かなりの効果を期待し得ると考えられる対応策は到底考えられないと思われたので、往診を明瞭に謝絶した。
 しかし、頑として聞き容れず、強引に助言、指導を頼まれ、止むを得ず往診したが、やはり私には無理と考えられたので、診療を辞退したが、結局、たっての依頼で、止むを得ず、私の考えによる食生活指導を柱として、現代医学的処置、漢方薬やその他民間療法的な処置も適時、適宜、併用した。約1ヵ月間で、疼痛が著しく減退し、日常行動力も著しく出て来て、室内の拭き掃除までも自分でするようになった。
 しかし、その内に腹水が漸次貯留し腹囲は増大し、90cmぐらいにもなり、腹部皮膚は緊張し、著しく光沢を増して来た。全身性浮腫も著明化し、殊に頸部が太くなったが、これは縦隔洞腫瘍の時の特徴である。
かような状態であるのに、頸部、腋窩には多数の腫脹したリンパ節を累累として触れ、上腹部にも、大きな固い腫瘤を明らかに触れるようになった。困って、種々工夫をしている間に、浮腫が消失して行き、頸囲も腹囲も、私も驚くばかりに縮少し、あれ程に、パンパンに張っていた腹も、今度は逆に、舟底状に陥没してしまった。
 本来なら、そのような状態になると、腫大したリンパ節や腫瘤はより触れ易くなるわけであるが、それなのに、逆に頸部、腋窩、上腹部の腫瘤を触れることが出来なくなってしまった。その間、血便が認められたわけでもなかった。
 消化管の腫瘍なら崩壊して肛門から排泄されることも考えられるが、これには全く私も驚いてしまった。
 患者の行動力も出て来て、夫の新規事業のホテルでの披露時には、約2時間、受付で応対をされた程である。しかし、この患者も、私の治療開始後約2年後には、ある日の夕方、病室の近くにいた家族の誰もが気付かぬままに、真に文字通り、眠るように死去された。最後迄、末期癌患者では、しばしば見られる悩ましい疼痛を訴えることも、ほとんどないままであった。

 ③ 47歳、男性、米国の或る病院長。1978年5月に、強度の背部痛、睾丸痛を訴え現代医学的諸検査の結果、前立腺癌で、諸所の骨へ転移を来たしていると診断され、除睾術とエストロゲン(卵胞ホルモン)療法を施行したが、背部痛は軽減せず、鎮痛剤を頻回服用し強度の悪心と嘔吐を反覆し、麻薬により、束の間の安らぎを求めた。
 かような状態の下で、いわゆる玄米・菜食療法を開始したところ、約1ヵ月後には疼痛が消失した。翌年の6月にはエストロゲン中止、同年9月の骨シンチグラムでは腫瘍所見が消失。
 1980年10月の骨シンチグラムで右第8助骨に異状を認めたが。食事療法に工夫を重ねつつ、社会的活動を活発に続けていたところ、同年12月末の骨シンチグラムで第8助骨の異常所見は明らかに縮少。以後、骨シンチグラム検査を繰返したが、異常像を認めない状態を持続し最近迄、引続き活躍中である。
 本患者は私自身が直接に診療したのではないが、数回の骨シンチグラムを見せて貰い、本患者と文通、連絡を重ね、或は直接対談し、同患者執筆の自己体験記を読み、私の長々しい読後感が日本語への翻訳版に掲載されるなどの縁があり、種々の意味で強い感銘を受けたので、あえて、ここに紹介した次第である。
 同院長自身、明瞭に指摘しているように、この注目すべき経過を取ったことに、玄米・菜食がどこ迄、影響した可能性がありそうなのかは医学的には明言しがたいが、かなりの程度に影響した可能性を否定するのは困難と私は感じるのである。
 更にもう一点、注目するべきことは、この院長が、毎日、この玄米・菜食主義の組織の人々と会い、意見を交換し合っている間に、かなり数多くの「癌患者での奏効例」を見聞したが、この院長自身、「癌に対するこの玄米、菜食療法を行って、好転した」と称せられるものの内、「西洋医に少なくとも『興味深い』と云わせるだけの医学的記録らしきものを残したのは、コーラー(日野註、これは患者名)と私だけだった」という。
 その内の一例は、たとえ過労の影響もあったとしても間もなく死亡したと、同書中に記されている。同書(英文)刊行後、恐らく1年半ぐらいしてから、同院長が来日された時に私は彼に直接、「その後、あなたの納得の行った癌症例での玄米・菜食による奏効例の数はふえたか?」と尋ねたら、「ゼロ」という答であった。
 この院長の観察は、玄米・菜食療法心酔者にも、現代医学陣営にも大変参考になると思われる。

 かように、症例を挙げて行くと、それぞれ、種々の点で読者の参考になることが少なくないと思われるが、字数の関係で、このテーマについては一応、筆を止めよう。