食養内科

          石塚左玄の著書「食物養生法」    印刷用【PDF】はこちら>>

 石塚左玄は漢方を学んで医者になっていますから、陰陽の理論には詳しいのです。陰陽は自然界の現象を陰と陽に分けて対立的に理解する理論です。石塚左玄は、明治の開国の時期にヨーロッパから入った学問、研究を貪欲に吸収したものと思われます。
 食べ物においては、食品のナトリウムとカリウムの量を調べ、これをもとに食物のナトリウムとカリウムの量が人体にどのような影響を与えるかを研究したのが石塚左玄なのです。
 陽はナトリウムが多い食品で食塩と動物性食品です。これをナトロン塩とします。陰はカリウムが多い食品で植物性食品です。これをカリ塩とします。
 ナトロン塩とカリ塩の割合が人の健康に大きな影響を与えることに注目し、どのように影響を与えるかを説いたのが夫婦アルカリ論です。石塚左玄はこの内容を前著書「化学的食養長寿論」で発表しています。
 石塚左玄の食養法の概略を見ると、住んでいる場所の歴史的条件と地理的、気候的条件を重視しているように思われます。従って、郷に入れば郷に従い、俗に入れば俗に従うと言うのが道理にあっていると考えています。
 明治になって、ヨーロッパから西洋風文化が輸入される状況になりましたが、これに対して警告を発しているのです。
 「食物養生法」は「化学的食養長寿論」の普及版です。前著書に比べると平易な書き方になっています。「食物養生法」4章からできています。

 第1章は「人類は穀類を食べる動物である」と言うことを述べています。人の歯は穀類をつぶすのに適する形状をしていると言うのです。
 肉食については、歴史的に日本では獣肉を食べない習慣がありましたが、気候的にはヨーロッパは寒く日本は温和ですから、肉を食べなくても健康の妨げになることは無く、むしろ食べないほうが健康になるのではないか主張しています。

 第2章は穀類その他の化学的性質についてですが、米穀は本来精米すべきものではないと言う説です。健康の維持を考えたら、玄米を食べるのがよいということです。玄米はナトリウム、カリウムの割合が適切な食品と考えています。
 食パンは日本国民が毎日食べるものではなく、うどんや素麺にしても一時の間食、又はやむを得ない時の代用品として食べる物だと言っています。

 第3章は入浴して発汗するのは体内の余分な塩分を棄てるという内容です。日本は海に囲まれた島国で、食塩の摂取量が多く、お湯につかって汗を出すのは健康法になるのです。血が多い人は体内の塩分も多いので、熱い湯に入るのを好むのです。

 第4章は夫婦アルカリ論の総論的な話です。食物の配合は軍隊組織の様で、澱粉は兵隊で多数を占め、蛋白、脂肪は下士官のようでこれも多く、これらを調節するカリ塩は隊長の如くで少なく、ナトロン塩は隊長を補佐する副官に相当して最も少ないのであるが、当時の栄養学は多い澱粉、蛋白、脂肪には注意を向けて、少ないナトロン塩、カリ塩に注意を向けていないことを批判しています。
 第4章の後半に、智の性質 才の性質を書いています。
 智も才も人の性質ですが、左玄は対立するような二つの性質として詳しく説明しています。智は知恵の智で、才は才能の才と言うような感じですが、智が本(もと)に在り、そこから才が現れると言う感じです。才は多言、雄弁で智は寡黙、沈黙です。
 才は目前の事を処理する能力に優れ、敏速に行動する。智は永遠の事を処理するためゆっくり行動する。
 喜怒哀楽の感情においては、才は大きく激しく表現するが、智は表現が少ない。
 ナトロン塩は才の性質を伸ばし、カリ塩は智の性質を伸ばすと考えています。

 石塚左玄の理論はナトロン塩とカリ塩という対立する二つの要素で説明するのですから、無理なことは多々あります。ただ二つの要素で説明すると、単純化されて分かりやすいと言うか理解しやすいのです。
 なぜ今、このような古い本に注目するかという意味ですが、現在の日本人が耳を傾けなければならない内容が書いてあるからです。明治時代から、日本は西洋文明を取り入れて、文化の遅れを取り戻そうと、努力し、現在では西洋文明を追い越すくらいになっていますが、それが良かったことなのかと疑わなければならなくなっています。
 日本政府は、1874年(明治7年)に漢方医学は医学ではないと抹消し、西洋医学だけを医学と認めたのですが、2001年(平成13年)に方針を変えて、大学の医学部の授業に漢方も教えるよう通達を出したのです。このような時期に、石塚左玄の古い説が新しい見地から価値を見直されるように思うのです。
 この本は文語の文章ですから、読んでも理解しにくいところがあるのですが、現代語訳があります。1982年に農村漁村文化協会から発行された橋本政憲氏の著書「食医石塚左玄の食べ物健康法」と言う本です。
平成25年11月26日 勉強会資料
食養内科 長岡由憲