食養内科

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 第1章 人類は穀食動物である その1 (現代語訳)

 およそ人類を始めとしすべての動物の食養は、それぞれ自然に適応しているもので、春は春の食物を取り、夏は夏の食物を食べ、秋は秋、冬は冬と、その季節に順応する食事をしなければならないように、私の化学的食養の道にも一定の基準があって、これに適する食物を摂取しなければならない。

 人類及び動物の歯牙の形状

 思うに、ライオン、トラ、犬、猫のように肉食動物の歯はのこぎり歯で先端が鋭く、下顎が横や斜めに動かず、堅くてしわい骨や肉をかみ砕くに適しており、野菜穀物を食べるのは不適当である。
 それから草食動物の牛、馬、羊などは、歯が平歯で間が無く、ひっついてその面は平坦で波のような模様があり、下顎は横や斜めに良く動くため、野菜をかみ砕くのに適しているが、ネズミやイタチなどの動物を食べることは出来ない。
 人類の歯はいわゆる臼歯でひっついて並び、下顎はわずかに前後左右に動く。歯の面は周りが高く中央がくぼみ、臼の形で、僅かに高低がある菊座形で、上下の歯が合わされば自然に大小不同の楕円形の隙間ができ、穀類の粒を噛みこなすのに適した天然自然の形であると言わざるを得ない。
 易に書いてある「頤(あご)が貞(ただ)しいのは吉、養が正しいのは吉」は真の言葉である。言うまでもなく、人類の顎は他の動物には絶えて無くなった一種独特の形と機能を持っているのだから。
 以上のことにより人類はどんなものを食べるべき動物か。私の判断はこうである。
 人類は歯と顎の形と働きにより、生まれながら穀類を食べるべき、すなわち穀食動物である。

   臼歯持つ人は粒食う動物よ
           肉や野菜は心して食え。
   顎の上の口を養う食物は
           穀より外によき物はなし。
   顎台に載せていただく菩薩かな

 食物の選択は歯牙の形状による

 ゆえに人類および他の動物に適切な食物を論ずれば、必ずまず食養の関門である歯と顎の形、ならびに下顎の運動の状態を考えて食物の種類を選び、その化学的成分と配合量は、人類及び他動物が分泌する乳汁を参考にし、それで食育、食養の行うべき道は国土の地形、天候、人種、海多陸少と海少陸多の差、そして日本の位置、暑いか寒いか気候の違い、山地か平野かの別、並びに幼いか老人か、男か女か、健康か病弱か、そして年齢、人種に適応するものを考えないわけにはいかない。

 人類の穀食は昔から変わらない

 人類の歯と顎に適合する食物は、穀類が最良最高であると言わざるを得ない。穀類は口に入り臼歯がこれを粉砕して唾液と混ぜて飲み込むのであるが、口の中で幾分か化学的変化、すなわち消化作用を受け、次に胃腸に送り込まれ、さらに化学的変化を受け、消化吸収されるものである。
それから、その成分は有機無機の両方があり、その配合も適切で、栄養の材料として適当であるため、古今東西いずれの国においても、穀類を何千年もの間、変化することのない大切な主食にしたのである。
 すなわち国土の位置と気候に従って、生産する穀類一種で、十分に人体を食育食養出来ることは明らかな事実で、無病健康で長寿をもたらす成分が適切に配合されていることも明らかである。

穀類の代用及びその賠償の食物

 しかしながら人類は国土気候に適さない穀物(たとえば、米を食べる人がパンを食べる人になった場合、――あるいは、加工して天然の成分が欠損した穀類を食べる場合、――また玄米を食べるべきなのに精白米を食べる人の場合、――もしくは穀類が乏しいため、その不足分を代用品のイモ類、乳類、魚類、肉類等)を食べると、おのずからその含む所の緒成分と配合量とに、増減多少の差異を来すので、これを補給するためにカリ塩が多い豆類、野菜果物のような物、又は塩辛く調理加工した植物性食品を選び、或いはナトロン塩が多い魚鳥獣肉卵のような物、又は塩を少なく調理した動物性食品を取って、適度に副食を調節しなければならない。
 これをまとめると寒地冷地において植物性食品を多く食べる時は、食塩と食油を多く加えるが、暖地暑時において動物性食品を多く食べる時は、食塩と食油を少なくするのが常習である。
 このような雑食をしていても、その食品が含むカリ塩、ナトロン塩の釣り合いが取れていれば、無病健康を保つけれども、それぞれの国土は地位地形が異なり、気候の寒暑湿寒は同じでは無い、このために食べた物によってでき上がる身体は背丈、肥り方、寿命の長さが異なるのはもちろん、毛髪の多少、肌の色、声の質の違いがあるだけでなく、体力の強さ、気力の違い、智恵才能も異なるようになる。

 原文 第1章の初めの部分
 凡(およ)そ人類(じんるい)を始めとし総(すべ)ての動物の食(しょく)養(やう)は、各(かく)その自然に適(かな)ふ所あるものにして、春は春の食を資(と)り、夏は夏の品(しな)を食(しょく)し、秋は秋、冬は冬と、その季節に順応(じゅんおう)する養(やしなひ)をなさざる可からずが如(ごと)く、我(わが)化(くわ)学(がく)的(てき)食(しょく)養(やう)の道(みち)にも自(みずか)ら一定の標準(へうじゅん)ありて、之(これ)に適当(てきたう)すべき食物(しょくもつ)を摂取せざるべからざるなり。
 蓋(けだ)し獅(しし)、虎(とら)、犬(いぬ)、猫の如(ごと)き肉(にく)食(しょく)動物の歯牙(しが)は、所謂(いわゆる)鋸(のこぎり)歯(ば)にして先端鋭(するど)く、下(した)顎(あご)に横(わう)斜(しゃ)運動(うんどう)なく、堅靭(けんじん)性の骨(こつ)肉(にく)を嚙(か)み砕(くだ)くに適(てき)し、草類(くさるい)穀類(こくるい)を食(しょく)するには不適(てき)当(たう)なり。而(しか)して草(さう)食(しょく)動物の牛(うし)、馬(うま)、羊(ひつじ)等(とう)の歯は平(ひら)歯(は)にしで間隔(かんかく)なく密(みつ)列(れつ)し、其(その)面(めん)は平坦(へいたん)に水(すい)波(は)の如(ごと)き紋(もん)理(り)ありて、下(した)顎(あご)に充(じう)分(ぶん)なる横(わう)斜(しゃ)運動(うんどう)を具(そな)へ、以(もつ)て草(くさ)類(るい)を磑(かみ)爛(こなし)するに適すと雖(いえど)も、鼠(ねずみ)、鼬(いたち)の如き動物を食する事能(あた)はざるなり。而(しか)して人類の歯牙(しが)は所謂(いわゆる)臼(きう)歯(し)にして密(みつ)列(れつ)し、下顎(かがく)は僅(わずか)に前後左右する所の運動(うんどう)あり、歯面の形状は辺(へん)縁(えん)高く中央凹(くぼ)く、恰(あたか)も臼(うす)形(なり)にして僅(わずか)に高(かう)低(てい)ある、所謂(いわゆる)菊(きく)座(ざ)形(がた)にして、上(じやう)歯(し)と下(か)歯(し)と相(あい)合(ぐわつ)すれば、自(みずか)ら大小不同なる扁(へん)圓(えん)形(けい)の空(くう)隙(げき)を生(しやう)じ、実に穀類の顆(くわ)粒(りふ)を粉(かみ)韲(こなし)するに適(てき)する、天然(てんねん)自然の形(けい)状(じやう)を具(そな)ふるものと言(い)はざる可(べ)からず。

 
平成26年1月28日 食養内科勉強会資料 文責 長岡由憲