食養内科

69 養生と治療     印刷用【PDF】はこちら>>

 病気になった時どうするかという話をします。
 病気になったら医者に行くというのが定番ですが、もし医者がいなかったらどうするかという場合もあります。
 次に医者に行ったけれど、この病気は治りませんと言われる場合もあります。こう言われると大抵は落ち込んでしまいます。
 病気になった時、医者や看護師、又は鍼灸師、整体師にかかって受ける行為を治療と言います。病気にならないように日常生活を注意することを予防と言います。例えばインフルエンザや風邪がうつらないようにマスクをするのは予防です。
 それでは養生とは何を言うのでしょうか。
 私が考えてみるに養生というのは病気になって気をつけるのも養生だし、病気にならないように気をつけるのも養生だと思います。
 養生と言うのは病気が有る無しにかかわらず日常的に行うものです。ですから病気がない時に養生を行えば病気にならなくてすむし、病気になってから養生を行えば、病気は早く治ると思います。
 そう考えると養生は重要な行いと言えます。
 2002年に日本の伝統医学を内容として「予防と養生」という雑誌が鳳鳴堂書店から創刊されました。これは隔月の発行予定でしたが、残念な事に3回発行して廃刊になりました。その表紙に

 予防は治療に優る! 養生は予防に勝る!

と書いてありました。
 確かに養生と言うものは大切なものだと思います。私も体が弱い方で様々な病気をしましたが、病気をする度に情けなく思いました。
 玄米を中心とした食養生を学んでからは希望が出て段々と元気になってきましたが、なにぶん未熟で愚かなために、次々と病気をし、その度に一つ一つ学んでゆきました。
 これから病気を治すと言うことはどういう事なのかをお話します。

 病気の種類

 西洋医学は主に伝染病を克服することで発達してきましたから、症状を改善することが治療と考えております。症状を治療していると、病気は治癒するのです。
 しかし最近多くなった病気は治癒することがなくなりました。例えば高血圧を例にとってみると、降圧剤を服用すると血圧は下がりますが、降圧剤を止めると、血圧は上がります。そうすると高血圧が治っているとは言えません。
 例えばアトピー性皮膚炎の場合、ステロイド軟膏を塗って紅班が消えたとします。しかし軟膏を止めると又、紅班が出てきます。これも治っていると言えません。ですから、症状が消えても治ったとは言えないので、治療して症状が消えた状態を医学的に「寛解」と言うのです。
 治癒という言葉が使えないからです。薬を止めても症状が消えていれば、これは治癒と言うことができます。
 なぜこのように、治らない病気が多くなったかと言うと、病気の種類が変って体質的な病気が多くなったからです。体質的な病気と言うのは持って生まれた遺伝的な体質が病気の背景にあると言う意味です。
 糖尿病、高血圧、アレルギー疾患そしてガンも遺伝的な背景を持った病気です。遺伝因子があると必ず発病するというものではありません。遺伝的体質を持っていると、生まれてからの生活の仕方によって、持っている因子が芽を出すことになるのです。生活習慣が健康的であれば、一生芽を出さずに生きてゆけるのです。
 糖尿病や高血圧を生活習慣病と言うのは、そういう意味があるからです。

 豊かになると病気の種類も変わる

 ではどうして、このように病気の質が変わったかと言うと、生活の変化が背景にあります。現在は食べ物が豊かです。食べ物の質を考えると問題はありますが、食べ物の量で言うと豊かです。ですから現代の病気は食べ物の食べ過ぎが、病気の原因担っていることが多いのです。
 豊かさの原因として、戦争が無く平和が続いていることは一つの原因です。もう一つは食品の保存技術が進歩したことです。
 食べ物は生きていますから、ほっておくと腐って食べられなくなってしまいます。冷凍したり、冷蔵したりさまざまな方法で保存できるようになったのも一つの原因です。したがって十分食べられなかった時代から、十分食べられるような時代になったために、食べ過ぎによる病気が増えてきたのです。
 私の子供の頃は、米粒一つも残さないようにと、教えられました。よく食べれば食べるほど、元気になった時代です。肥満児はいませんでした。
 食べ物が乏しい時代から、食べ物が豊富な時代に変わっても、子供の頃に教えられた考え方がすぐ変わるものではないのです。
 食べ物を残してはいけないという気持ちは頭の中にしみ込んでいるのです。これが結構くせものでなかなか抜けていかないのです。
 私は治療上、患者さんに余分な食べ物を残しなさいとか、余分な食べ物を捨てなさいと言っているのですが、自分が実行する場合は、かなりの決意がいります。それはもったいないと思うからです。それでも食べ物より自分の体の方がもったいないのだと思って残すよう努力しています。

 病気の前段階、病的体質を入れて病気を理解する

 それでは病的体質と言う考え方を入れて、病気の発生を説明します。
 普通、発病のメカニズムは健康の人が何かの病的原因によって発病すると考えています。
 健康と病気の二つの状態を考えています。表1のようになります。
                              表1

健康病気


 健康と病気の間に病的体質を入れると表2が出来上がります。病的体質は漢方で言う未病です。漢方・中医学においては、健康と病気の間に病的体質を入れており、この病的体質が病気の本体であると考えています。
                              表2

健康病的体質病気


 漢方・中医学においては、中央の病的体質を治すことを本治と言い、右側の病気を治すことを標治と言います。
 食生活が豊かになり、病気の種類が変って来たため、右側の病気の治療をするだけでは、病気が治らなくなったのです。病気の種類が変って来たため、中央の病的体質の方へ重点を置く対処が必要になって来たのです。
 食生活が豊かになってくると、病気の質が根本的に変わってくるのです。貧しくて食料が少ない時は、十分に食べられず、体力は低下します。そうすると、伝染病に感染しやすくなり、伝染病で命を落とすこともあるのです。

 豊かになると慢性病が増える

 病気がどのように変わったか説明します。
 昔の病気の代表的なパターンを表3の様になります。
 昔は食べ物が乏しいために体力は低下します。そうすると免疫力も低下し病原菌に感染し易くなります。その状態で菌に接触すると感染するのです。健康な時に菌に接触しても感染しないと考えています。
                       表3

健康病的体質病気
 体力低下
免疫低下
伝染病
結核


 この場合、治療の基本は、栄養と休養をとり病気の治療をすることによって病気は完治します。
 現代は食べ物が豊かなために、食べ過ぎて、体質が段々と悪化し、体質の偏りが病名になり、それがもっと進行すると、血管が異常になり、血管の病変が症状を起こします。
 病的体質は段々と進行し、最後には均衡が崩れ破綻するような病気になります。
 現代の代表的な病気のパターンは表4の様になります。
                表4

健康病的体質病的体質病気
初期進行発病
糖尿病・高血圧
肥満、関節リウマチ
脳卒中
心筋梗塞



 体質的な病気は病的体質が段々に進行していくため、どこまでが健康でどこからが病気か分かりにくいのです。そのため診断基準と言うものを作って、その基準に当てはめて、あなたは病気である、あなたは健康であると診断するのです。
代表的なものは、高血圧や糖尿病ですが、関節リウマチも診断基準があります。関節リウマチも体質的な病気なのです。

 養生

 体質的な病気はすべて、多くの原因が重なって発病します。これを一疾患多原因と言います。だから大抵は原因不明と言われるのです。原因が多くて、原因を特定できないために原因不明と言われますが、原因は人それぞれによって様々なのです。
原因を分類して、大きく三つに分けると、
 1、遺伝的体質
 2、住んでいる環境
 3、自分の行動パターン

 3の自分の行動パターンを分けると肉体的な物と精神的なものになりますが、肉体的な物を分けると、食生活、運動、休養、睡眠等になります。
 養生は自分の行動パターンを気をつけることになります。貝原益軒は養生の基本は慎むことだと言っています。私が好きな言葉は飲食節あり、起居常ありです。
 腹は八分目、胃の門限は九時(竹熊宣孝)

 治療の原則

 病的体質を治すことを本治と言いましたが、本治と標治について説明します。
 中医学の説明をすると、本と標は表5の様になります。本は病的体質のことで、標は現われた症状と理解してください。
 疾病の本質が本で、臨床上の現象が標です。病因が本で、症状が標です。体の内部にある病的問題が本で、体の外部にある症状が標です。
                         表5

病気の本質外面に現れた症状
病因症候
内蔵体表面


 次に中医学の治療原則を言いますと、症状が激しくて困る時は症状を止める治療をして、症状が軽く、我慢できる程度の時は、病的体質を治すような治療をしなさいと書いてあります。原著には「急なれば則ちその標を治し、緩なれば則ちその本を治す」とあります。
 漢方・中医学では症状を治す薬と病的体質を治す薬がありますから、それを使い分けなさいと言う意味です。
 漢方薬の種類で言うと、症状を治す薬は毒性が強いために、短期で使ってやめるものです。体質を治す薬は毒性が弱く長期に使用するものです。毒性が強い薬は下薬と言い、毒性が弱い薬を上薬と言います。
 漢方・中医学では本治、すなわち病的体質を治すことが根本的な治療だと考えていますから、標治すなわち症状の治療が終わっても、次に体質を治さなければ治療が終わったことになりません。原著には「病を治すには必ず本を求む」とあります。
 「上工は未病を治す」という話がありますが、この意味は腕のある医者は、病的体質を診断して、その段階で病的体質を治すような治療をするから、発病する前に病気を治してしまうと言う意味です。
 私も漢方医として、病的体質を診断していますが、私が診ている患者は長年、病気をしている人が多く、体に病的体質の兆候が現れています。その異常を見つけて漢方薬や食事療法の指導をしています。
 食事療法は病的体質を治す方法としては最も効果があると思います。薬のような即効性はありませんが、薬のような毒性が無いので、副作用はありません。
 食事療法は食欲のコントロールと手作り料理の手間がかかるやっかいな所がありますが、それを実行し継続すると、人間性、人格が高まる人間修養を兼ねて、しかも病気が治ると言う療法です。
 病気の治療においては、常に本と標の両者を診断しなければなりません。病的体質という考え方を入れると、治療の方法が一段と向上します。

平成26年3月5日  著作 長岡由憲