食養内科

2 食事療法はガン患者を長生きさせることができるか <<印刷用PDFはこちら
 
 平成元年から昨年までの25年間に来院された初診患者の病名を調べたところ、ガンが第2位で、1位のアトピー性皮膚炎に近い数でした。ガンも全体の約4分の1で25.1%でした。

 私はガンに対して特に興味はありませんでしたが、日野厚先生がガンになり手術をされたものですから、私は困った状態になったのです。まさかの状態になったのです。
 健康食を提唱していた人がガンになったのでは、どう考えて良いのか分からなくなります。私は日野先生が提唱された生態学的栄養学を信じていましたから、それを指導していました。日野先生が亡くなったとしても、後を継ぐ立場でしたから、その時どのように考えたらよいのか迷いました。生まれつき体が弱く下痢体質でもう治らないと言われた人が食養生と断食で回復し、その後は精力的に活躍されたのですから、69歳で亡くなってとしても、それは良しとしようと考えました。
 日野先生は腎臓のガンを手術した後、2年後に脳に転移がきて、再び入院されました。その頃、松井病院の近くに住む今村光一さんがゲルソン療法をやってほしいと言って来院されたのです。
 ゲルソン療法と言うのは初めて聞く名前でしたが、今村さんはマックス・ゲルソンの著書 A CANCER THERAPY を日本語に翻訳し終えた所で、数人のガン患者を連れて来られました。
 ゲルソン療法は食事療法が基本ですから当科で行うことも一理あると思いましたが、相手がガンですから、どうするか迷いました。ゲルソンは医者だと言うことなので、まったくの嘘ではないだろうと思い挑戦してみることにしたのです。
 ゲルソン療法以外にも、その頃行われていた代替医療を併用しました。コーヒー浣腸も実施し、ノーウォーク社の低速回転ジューサーも使って気が狂ったように治療を行いました。しばらく行った所、ゲルソン療法は出来ない事が分かってきました。ゲルソン療法は指導の通りに実行しないと効果が出ないと書いてあります。無塩の食事が続かず、野菜の量が多く、ジュースの量も多く日本人には無理な感じでした。
 それで忠実なゲルソン療法は中止して、食事は生態学的栄養学に変えて代替医療を各種行いました。その間、元気になって希望が出たような人もありましたが、「ガンを治す」という方向へは行かず、ある時限界を感じる情況になり、ガンの治療をすべて中止しました。ガンの治療は私の能力では無理であるとはっきり自覚したのです。
 「いずみの会」の会員が入院されるようになったのは平成2年からです。上記のグラフは「いずみの会」以外の人も含まれています。始めは年間1人くらいの入院でしたが、少しずつ増えて平成8年からは10人を超えるようになりました。平成16年に中山武さんの著書が出版されましたので、それからは全国から来院されるようになり急に数が増えました。
 会員数が多くなった頃、私は理解できない情況を観ることになりました。それは「いずみの会」の人が長く生きている事でした。「いずみの会」の人は自然退縮を起こしているような感じなのです。それも集団で自然退縮している感じです。これは私の医学常識を超えるものでした。
 普通はガンになると長生きをする人は少なく、多くの人は命を短くしています。この長生きが不思議なのは「いずみの会」の人は再発したり、転移したりして末期と言われるような人が多いからです。そういう人が長く生きているのですから信じられないような事が起こっていたのです。
 私は自分なりにガン治療を全力投球でおこない、そして自分の能力を知り、限界を感じてやめたのです。ところが素人のガン患者がガンの会を創り、特別な治療をすることもなく、「自助努力」と言って、自力で元気になっているのです。
 医者が出来なかったことを、素人がそれ以上のとんでもない結果を出しているのですから、私には認めることが出来ませんでした。
 私は会長の中山武さんに「あなたの会はたまたま運のいい人が集まっているのではないですか」と言ったものです。
 「いずみの会」の人が食養内科に入院して食事療法の勉強をして帰られるのですが、この食事は日野先生が創られたもので「ガンが治る」と言う食事ではないのです。ですから、私もこの食事を学んで実行しても元気で長生きをするとは思っていなかったのです。
 それでも次々と入院されてきましたから、私は迷いながら日野が提唱した生態学的栄養学を話していました。ガンが治らないとしても、入院して食事療法を学べば、体質改善をして健康体になることは期待できますから、私は入院を受け入れていました。
 中山会長は食生活に問題がある人に対して食事療法の教育入院を勧めたのです。中山会長は自分が食養内科に入院して、この食事は他の指導者の玄米食とは違うと自覚され、価値を認めておられたのです。
教育入院は1週間から2週間ですが、多くの人が勉強になりましたと言って帰られました。味が付いていないと文句を言う人もいましたが、入院している間に味が付いていることが分かったと言われました。食事の全体量が多すぎる人、又副食が多くて主食が少ない人など、人によって問題となる所が異なる訳ですが、自分の問題点に気がついた人は入院した価値があったことになります。
  「いずみの会」の人が長生きをする理由を考えた時、ガンが消えると言うのは考えにくいので、ガンの成長がゆるやかになり、そのうち成長が止まったのではないかと考えてみました。
 食事療法がガンの成長にどのような影響をあたえるのかを文献で調べてみると、免疫の働きを強調したものが殆どですが、もう一つ重要な事があります。それはガン細胞が持っているアポトーシスと言う性質です。これを知るとガンの成長について納得出来ると思います。
人体は大人になるまで全身の細胞が分裂を行います。大人になってからは細胞分裂を続ける細胞(再生系)と、細胞分裂を止めてしまう細胞(非再生系)と必要に応じて分裂増殖する細胞に分かれます。再生系の細胞には一定の時期が来ると細胞が死んで無くなるアポトーシスの機能が備わっています。それで再生系の細胞は毎日、発生した数と同じ数の細胞がアポトーシスで消失していますから細胞が増えることは無いのです。
ガンは再生系の細胞に発生しますからアポトーシスの機能を持っています。アポトーシスの研究者はガン細胞が日常的にアポトーシスを起こしていることを観察しています。
ガン細胞は原始的な細胞で、酸素を使わないでエネルギーを出していますから、生命を維持するために大量のブドウ糖を必要とします。又、大きくなるためには大量の蛋白質が必要です。ブドウ糖や蛋白質の供給が乏しくなると、分裂増殖に影響が出てガンの発育が遅くなり、そのうち発育が止まって、大きさが変わらなくなることも考えられます。食事療法の影響はこのような所にあるのではないでしょうか。


平成26年6月23日
著作 長岡由憲