食養内科

4 自律神経失調症と過敏性腸症候群               <<印刷はこちらから

 この25年間で診察した患者の中で自律神経失調症と過敏性腸症候群の人数を調べた所、図1のような数値になりました。病名の数で見ると前半は自律神経失調症が多く、後半は過敏性腸症候群が多くなっています。

 自律神経失調症と過敏性腸症候群は私が最も関心を持っていた病気でした。それは私がこの病気の経験者だからです。
 自律神経失調症は分かりにくい病気です。自分が経験しないと分からないのではないでしょうか。この病気は「生きる死ぬ」と言うような病気ではありません。それでも治ると言う希望が無くなってくると死にたくなってしまいます。
 自律神経失調症は不定愁訴症候群とも言っておりました。最近は慢性疲労症候群とか副腎疲労症候群と言う病名も現れていますが、これらも同類の病気と見てよいでしょう。
 人体の働きをコントロールしているものとしては自律神経と内分泌(ホルモン)があります。症状から病名を付けると不定愁訴症候群とか慢性疲労症候群になります。神経の問題だと考えると自律神経失調症になり、内分泌の問題だと考えると副腎疲労症候群になります。
 この病気は精神面が関係していますので、精神面から病名を付けると仮面うつ病になります。最近は新型うつ病とか現代型うつ病と言う病名も出ています。
 様々な症状が出るのですが、症状は人によって異なります。大体において元気が足りないような症状がでてきます。
 漢方で言うと気虚の症状に当てはまります。疲れやすい、動きたがらない、横になりたがる、朝起きにくく、午前中はぼんやりしている、口数が少ない等、からだ全体の不調を持っています。この外に、自分の体で弱い所の症状を持っています。
 気虚の原因として多くの人が血虚になっています。血が乏しいという意味で一種の栄養障害です。
 過敏性腸症候群は、自律神経失調症の症状に加えて腸の症状が強い場合に病名がつけられます。代表的な症状は便通異常です。便秘をする、又は下痢をする。そして便秘と下痢が交互に来るという状態です。また、腹にガスが溜って、おならが良く出るとか、腹が痛むという症状もあります。
 このような病気は医学的な検査をしても、はっきりした異常が認められず、症状は多彩で、病気のようであり、病気ではないようであり、医学的な対処に困ることが多いのです。
 従って、通常は、精神面の問題が大きいのであろうと考えて、抗不安剤や抗うつ剤を処方する場合が多いのです。しかし、この治療で治らない人は大勢います。
 それはこの病気が精神面の問題と同等に肉体面にも問題を抱えるためです。
 肉体面のことは医学的検査で異常がないことを確かめているとの反論があるでしょうが、現在、心身医学の分野では、血液検査の数字が正常範囲であっても、低い数値に近い場合は機能低下を考慮すべきであるという考え方が現れています。
 肉体的な機能低下があって、それに精神的ストレス等の問題が重なった時に、心身症的な症状が出ると考えれば筋が通ります。
 私自身の体験から言うと、精神面の改善に努力を払ってきて、努力の割に効果が上がらなかったのです。精神面と言うのは、精神力になるので、根性が無いとか、やる気が無いとかそう言う方面を改善しなければならない事になりますが、精神とか魂とか、霊魂とか見えない世界も勉強しました。座禅や瞑想もやってみました。しかしそれで治るという実感が持てませんでした。ところが、食生活を改善してからは症状が段々と消えていったのです。
 それで私は心身症の解決策として、肉体を変えることが必要だと思いました。肉体を変えるためには食生活の改善が第一になりますが、食生活の改善というのは肉を食べれば元気になると言うような、そう簡単なものではないのです。
 自分の食生活を全体として見まわして、どういう食品が過不足になっているのか、どういう栄養素が過不足になっているのか、又過剰に添加物等の毒物を入れていないかの判断が必要です。それが分からなければ治しようがありません。
 しかし、これを判断することは大変難しいことなのです。大体、病気になった人は自分の食生活に問題があると思ってはいません。自分は人並みの普通の生活をしていると思っています。それなのに病気になるのですから、それは体が悪いのだと考えてしまいます。
 私の経験からいうと、私自身悪い食生活をしているとは思っていませんでした。むしろ、健康には気を付けていると思っていました。しかし、食生活を変えて自分の健康状態が改善したため、私は自分の生活に問題があったのだと気が付きました。私の問題は、砂糖と果物の食べ過ぎだと思っています。その血虚になり、気虚になったのです。近頃はパンの食べ過ぎで血虚、気虚になる人が多いので注意して下さい。
 私は松井病院食養内科に勤めために、日野厚先生の生態学的栄養学を勉強したので、これは私には大変役に立ちました。そして、自分の健康を維持することに役立ったと思っています。
 日野先生は「自分で考えろ」と言われました。知識情報を幾ら集めても、自分の判断する能力がなければ、役に立たないと言われるのです。
 私はそれまで知識の量が増えれば賢くなるのだと思っていましたが、知識を幾ら集めても判断力はつきません。反対の情報が来たらもうどう考えて良いか分からず、思考が止まってしまいます。
 自分で考えるとはどういうことなのか。私はある時、すべての情報を入れないようにしたことがあります。テレビを見ない、新聞を読まない、本も読まない、人に質問しないことを続けたのです。それで何をしたかというと、毎日自分が口に入れた飲食物を記述して、便通の状態を記述するのです。これを3年ぐらい行ったところ、少し判断力がついたような気になりました。
 考え方の基準は自分にあるのです。体はみんなそれぞれ違うのです。自分の体にとって、何が必要で何が不必要であるかが分かれば良いのです。
 私は食べ物の恐さを身を持って体験したのです。砂糖や果物を食べて体を壊すと思う人は少ないでしょう。砂糖や果物を食べて元気な人はいっぱいいます。しかし、甘い物が好きな人は、人の2倍から3倍又はそれ以上に甘いもの食べるのです。これは体調を崩す原因になるのです。こういう物は嗜好品と言われる物です。酒もコーヒーも嗜好品です。酒もコーヒーも適量であれば問題はありませんが、過剰になると体調を崩します。過剰と言うのは人によって異なりますから、過剰が何 cc と言うわけにはいかないのです。
 現在の過剰問題の1つに食品添加物があります。食品添加物も適量なら問題はありません。しかし、店で売られている調理済みの食品には殆どの食品に添加物が入っています。
1品であれば適量でしょうが、何品目も買うと添加物が過剰になります。
 過剰な添加物は人体に有害になり、ミネラルの吸収を妨げ、人体の調節機能が失速するのです。その結果、人体制御が低下して自律神経失調症になります。そして急激に低下した場合はパニック障害というような症状になることが考えられるのです。
 人体は食べ物で作られますから、食べ物に注意を払わなければならないのです。昔のように自然な食べ物しかなかった時代は、注意する必要はありませんでした。しかし、食べ物が豊富になり、世界中の様々な食べ物が食べられるようになり、加工調理の技術が発達し、昔は無かった食品が現れています。
 大人は肉体が完成していますから、その維持に注意すれば良いのですが、赤ちゃんや子供は食べ物で体を作っている途中ですから、昔から日本人が食べていたような物を食べるよう心掛けた方が良いでしょう。日本人が日本に昔なかった物を食べ続けることは、人体実験しているようなものですから、どんな新しい変化が起こるか想像できないのです。
 人体にとって食べ物は、家屋を作る時の材料と同じです。口から入った食べ物で人体を作るのですから、食べ物に過不足があると、その状態で体を作らなくてはなりません。多いことは良いことだと思ってはいけません、バランスが悪いと病気の原因になります。
 食事療法を勉強しようと多くの本を読むと、殆どの人が分からなくなります。分からなくなったらかなり勉強したと言えるのです。食事療法の指導には丸反対の話がいっぱい出てきます。例えば生の食べ物が良いのか、あるいは火を入れてしっかり煮込んだ物が良いのか、それだけでもさまざまな主張が出るでしょう。
 自分にとって何が良いのかが分からなくてはいけないのです。分からなくなった時に自分で考えると言う方向へ行けば解決の糸口がつかめる様になると思います。
 自分で考えると言うのは、頭で考えると言うより、実行してみることなのです。増やしたり減らしたり、これをするかあれをするか実験の様なものです。
平成26年9月16日
著作 長岡由憲