食養内科

5 摂食障害の人は断食に関心あり      印刷用PDFはこちらから>>

 摂食障害の来院者数を調べてみたら図1のようになりました。このグラフを見ると平成11年が最も多く、次が平成16年です。この理由を考えてみました。
 平成10年に久保田展弘氏の「週末断食-空腹から見えてくる『空』の思想」と言う本が出版されました。この後、週末断食がブームになり、女性向けの雑誌が数社、当科に取材に来て、週末断食の特集記事を載せたのです。それを見た摂食障害の患者が断食をしたいと言う希望で来院されました。
 その後、平成15年に竹内俊明先生が「過食症からの生還―私は絶食療法で克服した」と言う本を出版されました。この本の巻末に、絶食療法が出来る医療機関として松井病院食養内科が紹介されました。この本を見て来院される方も多かったと思います。
 摂食障害の人は断食や絶食療法に関心があるようです。


 摂食障害というのは、神経性食欲不振症と神経性過食症があります。拒食と過食とも言います。
 食べないのと食べるのは反対のようですが、本質は同じものなのです。本質的にはどちらも痩せたくて、食べないように努力しているのです。
 過食は我慢できずに食べてしまうのです。ですから、拒食は頑張り通している状態で、過食は食欲に負けて脱落したという感じです。
 この病気は解りにくい病気でした。私は始めの頃、この病気は食べ物の内容が悪いから過食になるのだろうと思っていました。しかし、そんな単純なものではなかったのです。
 ある時、患者さんに「先生は、摂食障害のことが分かっていないね」と言われ、 ドキッとしました。
 それで、これは勉強しないといけないと思い、本屋で本を探していたら良い本がありました。その本にはこう書いてありました。
「摂食障害の患者はいつもブレーキをかけている。ブレーキを外すと暴走しそうで、ブレーキを外すことができない状態である」と。
 これは私には納得いく内容でした。摂食障害の人は、痩せ願望があります。痩せたいというような生ぬるい物ではないのです。痩せなければならないと言うような切実な問題なのです。やせているのが理想で美であって、太っているのは醜いことであると思い込んでいます。これは信念で信仰のようなものです。ある宗教に入ったような感じです。
 人がそんな間違った考え方はやめなさいと言っても、簡単に引き下がるようなものではありません。そしていくら痩せても、これで良いというものは無く、ひたすら痩せ続けることを希望しているのです。
 図2を見てください。この図は東北大学病院の心療内科のホームページにあるものです。痩せた人が鏡に映った自分の姿を見て太っていると思っているのです。
 この気持ちは普通の常識人には理解できないと思います。私は何となくわかる気がします。こんな風になっているのではないかと思っていました。
普通に考えるとあり得ない事ですが、人間の頭脳は言葉で洗脳されると、このような普通の常識的な考え方は消えて、非常識な事であっても、正しい事であると思うようになるのです。
 もしこうであるとすれば、この病気が治しにくいということは分かると思います。もしこうであるなら、死ぬまで痩せ続けることになるのです。
 自分の考え方が間違っていると気がつけば、そこで病気は治るのですが、それがなかなか気づかないのです。
 この病気になる人は理想を求めている頑張り屋さんですから、一生懸命頑張っています。頑張る姿も一つの理想像です。
 摂食障害がわかりにくい所の一つとして、患者さんはどちらかというと利口な人です。頭が良いと言いますか、学校の成績が良いといいますか、「頭が悪い」と言うような人ではないのです。出来が悪いというような人ではなく、出来が良いと言うような人がなりますから、これも分かりにくいところです。

食べたくないのに食べる訳

 摂食障害の患者を診ていて、一つの大きな疑問がありました。それは吐くことがわかっていて、食べるという行為です。
 私のように戦後の団塊の世代に生まれた者としては理解できない事でした。吐くのなら食べなければよいだろうと単純に考えていました。
 私の成長期は物が少なかった頃ですから、ご飯粒一つでも残さず食べていたのです。食べた物を吐くというのは、もったいないという気持ちが強い者には考えられなかったのです。
 摂食障害という病気は後進諸国にはありません。先進諸国にしかありません。と言うことは生活環境がある程度豊かになった状況で起こっています。
 日本においても、戦争が終わった後、段々に豊かになってきたので、ご飯粒一つを残さずたべるというような考え方はなくなりました。
 今では食べ過ぎの病気が多くなっていますから、低カロリーとか、糖質ゼロと言うような商品が売れていのです。
 時代が変わっても、成長期に教えられた考え方は、頭の中に染み込んでいて、なかなか変えることができないのです。
 時代が過ぎて生活環境が変わると人の考え方、生き方が変わってきます。何百年も同じ生活が続いていたら、考え方も特に変える必要はないでしょう。
 拒食の人がなぜ過食になるかという疑問ですが、患者は食べたくないのに食べています。そこがこの病気の分かりにくいところです。
 普通の人であれば食べたい時に食べ、食べたくない時は食べないのです。ところが過食になった人は、食べたくないのに食べているから不思議です。
 次のように考えると説明がつきます。
 患者が食べないように努力すると、体をコントロールしている原始的な脳が生命の危険を察知し、覚醒している新皮質の意識を停止させるのです。そうすると、患者の脳は眠ったようになり、夢遊病者になった感じでコンビニ等の店行き、食料買い混みます。そして家に帰って、ある程度食べた所で意識が回復するのです。
 意識が戻ると、「大変だ。また食べてしまった。」と思い、嘔吐して調整するのです。
 意識がはっきりしていて、食べないように努力しても、原始的な深い脳のコントロールが勝つと、患者は我を忘れて過食に走ります。本人は又、失敗したと思うかも知れませんが、それによって生命は維持きるのです。大局から見ると命は救われることになるのです。
 ところが、自分の意志が強く脳の新皮質、特に前頭葉がしっかりしていて、原始的な深い脳の指令に体が従わないと、拒食が続き患者は自分に勝ったことになり、ある意味で成功なのですが、生命の危険度は高くなるのです。
 いずれにしても、痩せなければならないと洗脳された状態は危険です。
 痩せるためにめしを制限することは、凡人のできることではありません。凡人は菓子を断つとか、お茶を断つとかもっと軽い所から始めるのが筋だと思います。

断食(絶食療法)の効用

 断食によって摂食障害が治るかという疑問があるかと思いますが、断食は昔から精神的な問題を解決するために行われていました。
 人生の岐路に立った時、仕事で行き詰まった時、どう進んで良いか分からないような時に断食をして打開策を見つけようとしたのです。
 昔から痩せようとして断食をした人はいないのです。それは断食では痩せることができないからです。断食をすると最初の3日間ぐらいは1日に1kg 体重が減少します。
 しかし、断食をすると食欲が異常に出てくるのです。そのため復食期になると、体重が元に戻るのです。
摂食障害は考え方が病的なのです。やせなければならない、或いは痩せたいという思いがあり、それに向かって全力で努力している状態です。
 それも食物を制限するという大変厳しい方法を使っているので命がけになるのです。
 私が断食の効果を考えた時、考え方、物の見方の変化が来るのではないかと思います。
 生きるか死ぬかという厳しい状態に置かれた人が、その上に食べないという厳しい状態を加えるのですから、これは大変追いつめられた状況になります。
 そのような時に新しい発想が生まれれば、断食を行った意味があります。新しい発想というのは、考え方が広がるとか、視野が広くなることによって別の生き方を見つけることです。
 絶食療法を行って過食症が治った人は、新しい生き方を発見したのではないでしょうか。
平成26年11月18日
著作 長岡由憲