食養内科

     15 石塚左玄の「食物養生法」現代語訳 ③       印刷はこちからから>>

石塚左玄著 食物養生法(復刻版)1974年 日本CI発行
 第三章 温浴及び発汗は人体の脱塩法である(その1)97~110頁
入浴は、地形、天候、人種に関係する
 夏良心が「生を治する者は、我を害する所を去る」と言ったのは良い話である。温浴は健康な体を取り戻す方法で、温浴風呂は大陸の国民より島国の国民に、山地の住民より海辺の住民に、寒い国の人より暑い国の人に必要である。
 その目的は体を清潔にし、精神を爽快にするだけでなく、運動以外に血液循環を良くし、食物の消化吸収を促し、発汗を盛んにして、体内に滞ったナトリウム塩、すなわち体内の塩を取り除くことにある。
 そのために我が国のように海に近い都会では十二町ごとに銭湯を作る必要があるが、海から離れた山地ではあえて作らなくてもよい。海に近い都会の人は日常摂取する食物の関係で、食べても舌では分からないが、ナトリウム塩の取り込みが多く、海から離れた山地の人はナトリウム塩の取り込みが少ないからである。

温浴の要不要は地形、天候、食物に関係する
 入浴の必要は地形、天候、食物の三者がどのようであるかによる。入浴の必要が無いのも地形、天候、食物の三者がどのようであるかによる。
 そして入浴の必要があるのは、最近では都会の魚をよく食べる人、殊に美食贅沢家と、塩味の強い食物を食べる労働者である。入浴の必要がないのは北方寒地の山里に住む人、殊に鳥獣の肉類及び魚類を食べることが少ない人である。

温浴の加減は身塩の多少に正比例する
 我が国の都会人であっても、下等社会の労働者は、上流社会の洋食嗜好家、あるいは正食勤倹家よりも、常に塩味の濃い食品を好む癖があるので、自然と体内に食塩が溜まる。
 従って、体に溜まった塩を抜くために、普通の人の温度より二~三度高い風呂に入って、十分に発汗しないと、体の爽快感が無く、健康を保つことは出来ない。
 入浴温度の調節は体を清潔にするほかに、その人の仕事や遊びの生活習慣、そして土地気候によるのは勿論であるが、実際は地勢及び日常摂取する食物の種類と塩気の量によるもので、すなわち入浴の温度加減は体の中に入った夫婦二塩の差に関係して、食塩の量に比例するのである。
 それで上流社会において飲酒や肉食が少なくて、運動が少ない人、禅宗の僧侶のように肉魚類を食べない人、及び塩分の薄い野菜類を食べる人では、体の中の塩の量も自然と少なくなるので、毎日入浴したいと思わなくなり、近海地の労働者が入る熱い風呂に入ることが出来なくて、常に低温の風呂に入るのは、下流社会の人のように発汗して体の中の塩を外に出す必要がないからである。

移住者の入浴及び食物の心得
 長く住んだ所から寒い土地、又は暑い土地に移住する人は「郷に入れば郷にしたがう」ところの食物を食べるのは無論であるが、寒い土地から暑い土地へ移住して入浴する時は、暑い土地から寒い土地へ移住して入浴する場合よりも、風呂の温度を上げなければならない。 
 殊に長雨が続く時とか、曇り晴れが一定でなく、昼暑く夜寒い気候不順の時、また雨の中、濡れて歩いた時、又は夜露に濡れて歩いた場合などで、入浴することが出来ない時、すなわちすべての体の蒸発機能が止まって、体の塩出しが出来ない時期が来ることが分かっている時は、必ずその前から邪味雑物の雑食を減らして、穀物野菜類の正食に頼らなくてはならない。
 もし雨が多い時に、入浴をしないで、濃厚な肉類魚類、あるいはカリ塩の多い果物類を貪食すると、どちらも後で体の害を避けることは出来ない。
 「礼記」の内則に「身に瘍あれば、すなわち浴せよ。首に創あれば、すなわち沐(もく)せよ」また「酒を飲み、肉を食らえば、痩せ衰え病になる。君子は為(な)さざるなり」とある。古代においても、すでに脱塩療法があるだけでなく、ナトリウム塩が多くカリ塩の少ない酒類肉類が、いかに人を害するかを知っていたのである。

入浴者の脱塩量は土地、気候、人種、食物に関係する
 入浴して体内の塩を取り除く量は、住居地、食生活の違い、人種職業の違い、入浴する風呂の温度の違いにより、同じではない。
 壮年期は少年期や老年期よりも、肥満の人は痩せた人よりも、活動的な人は動きの少ない人よりも多く脱塩する必要がある。
 入浴者の脱塩する塩の量についての実験結果は「化学的食養長寿論」の第四章に載せてあるので参考にしてほしい。
 入浴して脱塩する量は、その人の健康状態、行動量の多少、天候が寒いか暑いか湿気が多いか乾燥しているか、晴雨の多少、住居が山地か海辺か、食べ物が穀物か野菜か、肉か魚か、又調理に使う塩加減はどうかによって変わるものである。

蒸し風呂、石風呂の盛衰
 我が国の地形を考えると、関東より大阪中国地方にかけて、又その西南の沿海の各都市には銭湯の外に、昔から蒸し風呂という脱塩法があり、西南に行くほど段々と数が増えるのは、西南に行くほど気候が温暖になるからである。
 石風呂の蒸気法は、弘法大師が安芸の厳島、讃岐の水主に造設されたもので、その設置は沿海の塩気の多い地域や湿気の多い地域に広がってゆき、千年以上の長きに亘って、その恩恵を受けたものが幾千万人といるのである。
 ところが、明治維新の後はヨーロッパ大陸山国の医学を盛んに輸入し、寒い時期が長く脱塩療法が少ない寒帯の大陸国民を真似て、その衛生法を、そのまま我が国に取り入れた結果、ついに蒸し風呂・石風呂を廃止することになってしまった。
 しかし魚と塩が豊富な我が国では、半健康人の身体から十分に発汗させて脱塩させるには、この方法が最も良いもので、食塩のうっ滞が原因の体質悪化の病気は湯治を行うと皆、本来の健康に戻るものである。
 ローマ建国百年前にギボン氏が「湯治の温泉があれば医師はいらない」と言ったが、当然のことながら、ローマは我が国に似て近海の都市であるからである。
 入浴は我が国の地形天候に適しており、自然の仕組みに合致した人為的に必要があって生まれた摂生法であることは、もとより言うまでも無いことである。
 昔、和方の医療で発汗法を第一としたのは効力があったからである。

和方の湯治法(訳者注、和方=日本で生まれた古来の医術)
 文明年間(四百有余年前)の書物にさまざまな病気に汗を出す和方の術が書いてある。しかしその後、消滅してこの術の効能を知らない。今でも、遠い辺鄙な地方ではこの術を使って長命な人がいる。これは和方の中で一つだけ残った治療法である。
 文久年間の著述家、尾台士超氏の「医余」には「辺境僻地の民が、にわかに腹病、背病、腰病、悪寒などを発症したら、感冒、胃けいれん、かく乱、回痛、血気病など病気の種類にかかわらず、ただちに熱くはげしくあぶり、腹も背も汗をかくと、病が治る効果は、はなはだ速い。」とあるのは、今の人と、比較して硬化成分とナトリウム塩が多い、カリ塩が少ない当時の食習慣のため
と思われる。

             平生の気持ちにほしや風呂上がり
             長命は素食少食日湯ダラニ
             おりおり御下風遊ばさるべし………天海(訳者注、下風=おなら)
 入浴に温度について
 日清戦争、ことに日露戦争後に流行した食養法のように、硬化成分とナトリウム塩が少ない、カリ塩が多いジャガイモ、牛肉あるいはシチューのような、塩気の薄い雑品を主食にして、小麦の白パンを副食にし、さらに食後に行っていた飯後の漬物を食べないで果物を多食し、なお食間に果物を食べると言う傾向があるので、意志が弱く、弱い体になってしまう。
このような人は、喋りが少なく行動的な人のように入浴する必要がなくなり、入浴する場合にも俗にいう日向水のようなぬるい湯に入り、熱い湯は害があるなどと言って、西洋風な考え方をして、我が国の地位天候を考えない、漫然と人任せにする理想を考えない人である。
 その結果、体は知らず知らずのうちに、言葉は巧みになるが行動は少なくなり、多病不安な体になるので、明治十年~二十年頃まで残っていた、京都の戸棚風呂、すなわち風呂に入ってその板戸を閉めるような、半蒸し風呂の情景を実際に見れば、必ずびっくりして驚くだろう。
 なぜなら、我が国は太古の名前を「ヲノコロ島」と言って、塩の塊の意味、即ち塩温石のような、火気が強くて温まる気が多いので、まるで火の本にいるような感じで、ナトリウム塩の多い地位地形なので、上古以來、入浴発汗の脱塩法が必要なのである。
 その後、漢方の治療法が伝わって、全国に広まった後でも、諸病に発汗法を行って、和方の一術が漣綿と継続してきた。
我が国の人民は特に熱い湯に入って、発汗脱塩しなければならないのは、これは皆、日常摂取する食物に原因がある。
 それは北緯四十度~五十度のヨーロッパの人々より、副食は常に塩気を強くしなければ、新陳代謝が不良になり、心身両面共に不健康になるからである。
 歴史を調べてみても昔から米と塩の二者は飢饉や、出陣の時に準備したし、特に塩は多く食べたことで塩の大切さが分かる。
 そして、カリ塩が多い大陸国に少ない温泉場が、ナトリウム塩が多い島国に多いのは、自然の仕組みの素晴らしさと言わずして何と言うか。
 されに言うと、温泉場のない沿海魚塩地の人民を保護するのに、弘法大師は蒸風呂を造設されたという事実があるではないか。

入浴後、乳児に乳を与える意味
 又、「験方新編」に顱顖経(ろそうきょう)からの引用として『真夏の暑い時に、母は入浴の後、児童にすぐ乳を与えてはいけない。児の胃をそこね、赤白痢になる。入浴後しばらく休んで、乳を良く揉み、又しばらくして、然る後に授乳するべきである。』と載っているように、入浴すれば、母体の乳中に塩の分泌が高まるので、子供にこの乳を与えたら長寿論の第九章に述べたように、ジフテリア及び赤痢の論説に於けるが如く、塩毒症を誘発することになる。

 身体の脱塩を促す入浴法
 又、入浴して体から容易に塩を抜こうとすれば、カリ塩を有する品類を用いるとよい。たとえば我が国の産婦が分娩後、及び痔病に干葉(ひば)の腰湯をするのがそうである。
又、例年五月の節句の当日、若しくはその前後に行う菖蒲(しょうぶ)湯のようなものは、晩春初夏の頃、夏風邪が発生しやすい時期に際し、普通の入浴では脱塩しにくい、停滞する体内の塩を穏やかに抜けば、いわゆる邪気払い、暑気払い(実は身体の塩払い)となって、暖暑時の候、及び湿度の高い時、多く発生する疾病を未発に予防できるのである。
 その他、草根木皮の類を入れた浴湯も、また身体を穏やかに脱塩して、無病健康にする我が国独特の化学的衛生法である。

感冒は身体にナトリウム塩がうっ滞する結果病である
 ところで、人体の脱塩法は、あえて入浴法に限らず、他の方法を行っても、よく脱塩できるけれども、発汗法が必要なのは古今東西その考えは同じで、唯その方法が異なるだけである。
 感冒は万病の元と言うけれども、その発病の原因は、単に皮膚の蒸発気閉塞と言うだけで、未だその病原病理も不明と言われているので、ここで私が化学的な説明をしてみる。
 感冒には元々虚実の二病がある。虚性の感冒は脂肪が少い貧血の人に多く、感冒に犯され易いが重病にはならず、実性の感冒は多血、強壮の人に多く、一時的に身体にナトリウム塩(すなわち食塩)がうっ滞することによって発症するというべきもので、患部の局所はカリ塩とナトリウム塩との、夫婦二塩のバランスを崩したことが内因となり、この内因に乗じで外部からの原因が重なって起こった結果に外ならない。
 故に感冒を治そうとするには、その人の容貌色澤によって食養の正雑多少と体質の硬軟強弱とを望診し、虚実の二症は勿論、深浅軽重のいずれに属するかを、詳しく判定しなければならない。
 そうして虚性感冒は寒性感冒であって、カリ塩性の感冒であるから、慢性症状は多く出るが、熱性感冒のように苦しむことは比較的少い。
 その原因は正食の穀類が多くて、雑食の肉菜が少ないからであって、平素の食養法にもう少し脂肪分と塩気分とを増せば、自然に快復することになる。
 したがって熱性感冒のように、急劇に治療を加えなくても、それほど心配することはない。
 之に反し実性感冒は熱性感冒であって、ナトリウム塩性の感冒なので、急性症状が多く、苦しむことは寒性感冒より多い。
 したがって急速に治療をしなければ、いわゆる万病の原因となって、世人が恐れる重き疾患に転じることが多いのである。

感冒の治し方は脱塩するか、或はカリ塩が多い食品を与える
 この実性感冒を治そうとすれば、身体内にうっ滞しているナトリウム塩を排除すればよい。その方法は単純に保温法をもって発汗脱塩するか、或はカリ塩を多くしてナトリウム塩の少ない、熱飲熱食をもって発汗脱塩するか、あるいはカリ塩の多いドーフル散のような、又は葛根湯のようなもしくは「アメリカングロック」のような発汗剤である脱塩剤を使って発汗脱塩すれば充分に治療の目的に達し、食養成分を支配する夫婦二塩のバランスを改善することが出来る。

 発汗脱塩法の種類と名称
 但し、「アメリカングロック」をまねて作る場合は、ミカンを皮ごと輪切りにするか、又は引き千切るかして、コップに入れ、酒と砂糖を入れ、これに熱湯を注ぎ四~五分間ふたをして置いた後、これを温服すればよい。
 「本草綱目」の発汗法の条に「風寒暑湿の邪、皮膚の間に入り、まだ深くない時、速やかにこれを去ろうとすれば、発汗より良い方法はない。玄府(汗孔なり)を開いて邪気を追い払う方法である。これには数法あって、温湿発汗(蒸気浴のような)と寒涼発汗(内観真修法のような)と薫漬発汗(入浴法のような)と導引発汗(按摩法のような)とあり、皆、玄府を開いて邪気を追い払う方法である。」とある。
 又、その軽剤の条に「およそ薫(いぶ)り、洗い、蒸し、炙(あぶ)り、慰(よもぎ)し、烙(や)く、刺し、砭(いしばり)し、導引し、按摩するは、みな発汗の法なり。」とある。
 この方法は全身又は局部に、一時的にナトリウム塩がうっ滞したのを取り除き、カリ塩との均衡を得る化学的の治療法である。
 これを説明すると、食物により身体に一定量のカリ塩を補給しなかった一時の不足、あるいは身体に一定量より多くのナトリウム塩を過剰に取り込んで身体が異常になった時、病原体の感染を受けて、夫婦両塩の不均衡の結果より起こった身体の軽い病気を、化学的に治療するものである。
 ゆえに私はこのように考える。感冒は要するに身体に存在する夫婦両塩の不均衡によって起こるもので、その配合量が適切であれば、穀類の緒成分も皆、適度に消化吸収されるので、感冒にかかる心配はない。
 しかし夫婦両塩の配合量が不適切で、ナトリウム塩よりカリ塩の量が多すぎれば、吸収作用も発散作用も遅くなるので、身体はこの為に氷のように冷えるので、軽い感冒には罹り易くなるけれども、重くはならない。
 これとは反対にカリ塩よりナトリウム塩が多くなると、吸収作用も発散作用も急速になるので、身体はこの為に焼き炭のように温まり、普通の生活においては感冒に罹らないが、飲食が過ぎて、忙しく働き、風寒暑湿の変化に遭遇したら、強度の感冒に罹ることが多い。

平成26年11月25日
訳者 長岡由憲