過敏性腸症候群の食事療法

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食養内科部長 長岡由憲

 過敏性腸症候群というと難しそうに聞こえるが、現在、便秘や下痢で悩んでいる人の中に、この病気が多いと思う。私自身は若いころ、長い間便秘で困っていたが、今から考えるとこの病気であった。私の師匠である日野厚医師は若いころ、下痢で苦しんでおられたが、これも過敏性腸症候群であったと思う。

 

 過敏性腸症候群について

 過敏性腸症候群の症状は腸管の機能異常に基ずく便通異常と腹部症状が主となり、他に自律神経失調症に基ずく不定愁訴や精神症状を伴うことが多い。便通異常には便秘、下痢、または便秘・下痢の交替があり、腹部症状としては、腹痛、腹部膨満感、放屁等がある。 自律神経失調症としては、頭痛、めまい、倦怠感、不眠、頻尿、肩こり、動悸、四肢冷感、徐脈等がある。精神症状としては、不安、緊張、イライラ、うつ状態などがある。

 このように過敏性腸症候群には腸管を中心とした腹部症状と、自律神経を中心とした全身症状の二面性がある。口から入った食べ物は、腸管を通る時に直接、腸管に作用する場合と、食べた物の栄養素が消化管で吸収され、それが間接的に腸管機能に作用するルートがある。したがって、本症の食事療法を考える場合、大便の内容、質を良くして腸管との関係がうまく行くようにするために、どのような食事療法を行うかという問題と、そのような症状を起こす腸管の機能異常を改善するために、どのような食事療法をしたら良いかという両面から考えることが必要である。

 言葉を変えて言うと腹部症状に対する対症療法的な食事療法と自律神経失調症の治療を目的とする体質改善的な食事療法である。

 

 便秘に対して

 便秘に対する食事療法としては高繊維食が獎められる。過敏性腸症候群の便秘は痙攣性便秘といって兎糞状の硬い便を排出する。高繊維食は繊維の保水性が便容量を増大させ、便の固さを正常化し腸内通過時間を短くする。

 糞便の量を増やすためには麦飯や玄米食が推奨される。日本人の食事では、主食を玄米か半搗米にすれば良い。白米にする時は、麦を加えると繊維の補給になる。麦は中央に溝があるので、精白しても、溝の所の繊維やビタミン類が残り、米にない栄養素もあり、利用すべき食品である。副食としては、緑黄色野菜、海草類が繊維の多い食品として推奨される。コンニャク、シイタケも繊維の多い食品である。

 

 下痢に対して

 下痢に対しては牛乳や冷たい飲み物をひかえることが獎められる。食物繊維については、生理的に必要な量の食物繊維を毎日食べたほうが良い。食物繊維は大便の水分が多くなり過ぎることも、少なくなり過ぎることも防ぐ性質がある。繊維の食べる量については、毎日1回から2回softな便が出る程度にすれば良い。

 

 放屁に対して

 放屁に対しては、豆類、キャベツ、その他の発酵しやすい食品を制限し、炭酸飲料の多飲も避けるようにする。

 

 食習慣について

 暴飲暴食を避け、食事の時間、量はなるべく一定にするよう、規則正しい食習慣をつける。冷たいもの、炭酸飲料、アルコール、香辛料、コーヒーなど刺激性の食品は控えるようにする。過敏性腸症候群の患者は、腸が冷えて、機能低下を来していると考えられるので、腸を冷やす物、または体を冷やす食品いついて注意する必要がある。冷蔵庫から出してすぐの物、清涼飲料、ジュース類、果物、ビール、果実酒、うり類、アイスクリームは体を冷やす作用があるので、取り過ぎないように注意する必要がある。

 

 体質改善を目的とした食事療法

 過敏性腸症候群は腸管の機能異常であり、同時に全身的な自律神経失調症を合併していることが多い。腸管の機能異常は、心理的なことが原因となることもあるが、栄養失調が原因となることもある。現在、日本の食糧事情は大変豊かで、満たされた情況であるが、飽食が進むにつれて、その一方で栄養失調がどんどん進んでいる。

 現代の食生活は経済的な繁栄の影響で、非常に改善され向上した面と、反対に劣悪になった面が共存している、全体を平均化すると日本人の栄養摂取量は質、量とも理想的な領域に近づいているが、個人的に見ると極端な偏食になっている人も多い。

 科学技術の進歩は、加工、保存の技術を発達させ、そのおかげで先進諸国においては、豊富な食品に恵まれることになった。しかし、その反面加工、保存のため多種類の添加物が使われた食品や、ビタミン、ミネラル、食物繊維の減少した食品が多くなった。

 近代化された食生活の特徴を挙げると、増加したものとして、油脂類、砂糖、肉類、牛乳、乳製品、果物、アルコール類がある。そして新いタイプの加工食品、保存食品が増え食品添加物の使用も多くなっている。一方穀類やいも類、豆類が減少し、それに伴って食物繊維の摂取量も減っている。好まれる食品は食べ難い物から、食べ易い物へ、また料理するのに手がかかる物から、手がかからない物へ変わってきた。

 過敏性腸症候群は精神面と肉体面の種々の要素が絡み合って発生しているが、近年増加している疾患であり、文明化された環境から生まれた疾患と言える。食生活の大きな変化が過敏性腸症候群の発生と関係が深いように察せられる。

 近代化される前の食事は、ビタミン、ミネラル、食物繊維の豊富なパターンであった。それは貧しい食事であり、低カロリー、低蛋白であった。近代化された食形態は、高カロリー、高蛋白になりごちそう食のようになったが、相対的に、ビタミン、ミネラルが不足してきた。これらの栄養素不足は、自律神経機能低下との関連が考えられる。

 

 生態学的栄養学のすすめ

 松井病院食養内科を創設した日野は生来虚弱で下痢体質であった。その頃は過敏性腸症候群という病名がなく、慢性大腸カタルや腸結核と言われていた。日野は健康食、長寿食を研究し、生態学的栄養学を提唱したが、その具体的実行条件として20カ条を作っている。これを実行すると、過敏性腸症候群の症状が改善されてくる。精白度の少ない穀物、緑黄色野菜、海草類は、食物繊維、ビタミン、ミネラルの多い食品である。過冷のもの、香辛料、刺激物、アルコール飲料、清涼飲料水、インスタント食品についても書いてある。20カ条をじっくり読んで実行していただきたい。

 

 私の個人的な話

 私自身の体験を話すと、私の場合は玄米食を食べることによって、即いい便がスムーズに出るようになった。バナナ1本というやつである。これには感動した。この体験から便秘の人に玄米食を薦めたことがあるが、みんながみんな玄米食をたべてすぐ良くなる訳でもない事がわかった。私自身はその後、玄米食を続けていたが、それでも又段々と便秘傾向になっていった感じだった。ただし以前の便秘とはレベルが違ってひどいもではない。 しかしどうして便秘傾向になるのかわからなかった。その後、日野先生の元で食事の勉強をし、自分の食生活を変えていって、体調は徐々に良くなり便通も良くなっていったが、そこでわかったことは、副食、間食の影響である。副食もしかりした物を食べなければ、内臓もちゃんと動かない事がわかった。主食だけで体ができているのではない。副食も体の機能を維持する大切な栄養素が多く含まれている。間食も楽しみなものではあるが、砂糖のはいった甘い菓子のようなものを多く食べているとどうしても体の機能が低下して、便通が悪くなる気がする。

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